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【コラム】手術が必要?犬・猫の腫瘍の見極めポイント
ワンちゃんや猫ちゃんの体に「できもの」を見つけると、「これって腫瘍?」「手術したほうがいいの?」「様子を見ても大丈夫?」と不安になりますよね。
腫瘍の治療には、大きく分けて手術・抗がん剤・放射線治療の3つがあります。どの治療を選ぶかは、腫瘍の種類や状態によって変わります。これまで抗がん剤についてはお話ししましたので、今回は「手術(腫瘍外科)」について分かりやすくご説明します。

腫瘍外科の役割
腫瘍の治療は、それぞれ役割が違います。抗がん剤は、体の中に広がっているかもしれないがん細胞に効く「全身治療」です。
一方で手術は、目に見える腫瘍を取り除く「局所治療」です。つまり、抗がん剤 は、見えないがんに対応 するもので、手術は 今ある腫瘍を取り除く ものという違いがあります。大切なのは、「どちらが良いか」ではなく、その子に合った治療を選ぶことです。
手術の一番の目的は、腫瘍をしっかり取り切ることです。きれいに取り切ることができれば、それだけで良くなることもあります。特に、腫瘍が小さくて周りに広がっていない場合は、手術がとても有効です。逆に、腫瘍が大きくなっていたり、周りに入り込んでいると、取り切るのが難しくなることもあります。そのため、手術のタイミングはとても大切になります。
手術には、腫瘍を取り除くこと以外に、「詳しい情報を得る」という大切な役割もあります。皮膚の腫瘍では、手術前にある程度の診断(仮診断)はできていることが多いですが、はっきりとした診断(確定診断)はできていません。そこで、手術で取り出した腫瘍を使って「病理検査」を行います。これは、腫瘍を専門の検査機関に送り、詳しく調べてもらう検査です。「腫瘍の詳しい種類」や「切り取った部分に腫瘍が残っていないか(マージンチェック)」 、「腫瘍が血管やリンパ管に入り込んでいないか(脈管内浸潤) 」といったことが分かります。さらに、必要に応じて周りのリンパ節も一緒に検査することで、リンパ節への転移しているかどうかも確認できます。こうして得られた情報は、手術後に追加の治療が必要かどうかを判断するうえで、とても大切なヒントになります。
手術を選ぶポイント
手術をするかどうかは、いくつかのポイントを見て判断します。
まず大事なのは、「その腫瘍を取り切れるかどうか」です。皮膚や皮下にあって、広がりが少ない腫瘍は、手術で取り切れる可能性が高く、手術が第一の選択になることが多いです。一方で、筋肉や臓器の奥まで入り込んでいる場合は、手術が難しくなることがあります。
次に大切なのが、転移があるかどうかです。転移がない、または少ない場合は、手術で取り除くことで良い経過が期待できます。しかし、すでに全身に広がっている場合は、手術だけではコントロールが難しく、抗がん剤などの治療が優先されることもあります。
また、腫瘍の性質(悪性度)も重要です。広がりやすい腫瘍や再発しやすい腫瘍は、小さくても早めに取った方がよい場合があります。「小さいから様子を見る」ではなく、腫瘍の性質に合わせた判断が大切です。
さらに、腫瘍ができている場所も重要なポイントです。同じ大きさの腫瘍でも、皮膚にできたものと、口の中やお腹の中にできたものでは、手術の難しさやリスクが大きく変わります。腫瘍が体のどの部分にあるかによって、「安全に取り除けるか」「どこまでしっかり切除できるか」が変わってきます。また、肛門や目、耳、泌尿器の近くなどは、その機能を保ったまま腫瘍を完全に取り除くことが難しい場合があります。さらに、足先や尾(しっぽ)など皮膚に余裕が少ない部分では、腫瘍を取ったあとに皮膚同士をきれいに縫い合わせることが難しいこともあります。そのような場合には、周りの皮膚を工夫して移動させたり、別の場所から皮膚を持ってきたり、あえて少し余裕を持たせて縫うなど、状況に応じた方法で対応します。

そして忘れてはいけないのが、その子の体の状態です。年齢だけでなく、心臓や腎臓の状態、体力、持病の有無などを総合的に見て、麻酔や手術に耐えられるかを判断します。
このように、手術はすべてのケースで行われるわけではなく、
- 取り切れるか
- 転移があるか
- 腫瘍の性質
- 腫瘍のできている場所
- 全身の健康状態
を総合的に見て、手術を行うかどうかを決めていきます。場合によっては、手術をせずに他の治療を選ぶこともありますし、手術の目的を「完治」ではなく「痛みを減らす」ために行うこともあります。大切なのは、その子にとって一番負担が少なく、良い生活につながる方法を選ぶことです。
手術だけ?それとも併用?
腫瘍の治療は、必ずしも「手術だけ」で終わるとは限りません。腫瘍の種類や進行度によっては、他の治療と組み合わせて行うことが多いのも特徴です。手術で腫瘍を取ったあとに、見えないがんを抑えるために抗がん剤を使うことがあります。これは再発を防ぐための治療、補助療法と呼ばれるものです。
また、腫瘍の場所や広がりによっては、どうしても完全に取り切れない場合もあります。そのようなときには、残った腫瘍に対して放射線治療を行い、局所のコントロールを目指すこともあります。当院では放射線治療は行っていないので必要に応じて2次診療施設に紹介いたします。
このように、
- 手術で見える腫瘍を取る
- 抗がん剤で見えないがんを抑える
- 放射線で残った部分をコントロールする
といったように、それぞれの治療の特徴を活かしながら組み合わせることも多いです。治療は一つに決めるものではなく、その子の状態に合わせて最適な組み合わせを考えていくものです。「手術をしたら終わり」ではなく、その後の治療も含めてトータルで考えていくことが大切です。
よくある誤解
腫瘍の手術について、よくある誤解があります。
🐶「大きくなってから取ればいい」
⇒ 実は逆で、小さいうちの方が取り切りやすく、体への負担も少なくなります。
🐶「高齢だから手術はできない」
⇒ 年齢だけではなく、全身の状態や検査結果をもとに判断します。
🐶「良性なら放置していい」
⇒ 良性でも大きくなったり、生活に影響が出たりする場合は手術が必要なこともあります。
このように、見た目やイメージだけで判断するのではなく、正しい情報をもとに考えることが大切です。
迷ったときに大切なこと
腫瘍の治療には、「これが正解」という一つの答えはありません。だからこそ、「手術をしたほうがいいのか」「様子を見てもいいのか」と迷うのは、当たり前のことです。
そんなときに大切なのは、まず早めに検査を行い、腫瘍の性質を知ることです。そして、その結果をもとに、獣医師としっかり相談しながら、その子に合った治療を一緒に考えていくことだと思います。「まだ小さいから大丈夫」と思って様子を見ている間に治療のタイミングを逃してしまうこともあります。なので、気になるできものを見つけたときは、できるだけ早く相談することが大切です。
腫瘍の手術は「怖いもの」と思われがちですが、適切なタイミングで行うことで、大きな治療のチャンスになることもあります。大切なのは、「手術をするかどうか」ではなく、その子にとって一番負担が少なく、より良い生活につながる選択をすることです。
迷ったときは一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に、その子にとって最善の道を考えていきましょう。
