「かゆい、かゆい…!」
愛犬や愛猫が体をかきむしったり、耳を掻いたり、毛を噛んだりしていると、とても心配になりますよね。痒がる姿を見るのは飼い主さんにとってもつらいもの。「どうにかしてあげたい」と思うのは当然です。

ワンちゃんや猫ちゃんの痒みは「アトピー」や「アレルギー」が原因と思われがちですが、実はそれだけではありません。今回は、ワンちゃん・猫ちゃんが痒がる原因、動物病院での検査・診断方法、そして予防法について詳しくお話しします。

犬や猫がかゆがる原因は?

痒みにはさまざまな原因があり、原因によって治療法も異なります。正確に見極めることが、最適な治療への第一歩です。

  • アレルギー性皮膚炎:
    食物や花粉、ハウスダスト、ダニなどの「アレルゲン」に対する過剰反応で皮膚炎を起こし、強い痒みを引き起こします。アレルゲンを特定できれば、避けることで症状を軽減できることもあります。
  • アトピー性皮膚炎:
    遺伝的な体質が関与する皮膚疾患で、皮膚のバリア機能が弱く、外部刺激に敏感です。ハウスダストや花粉など複数の環境アレルゲンが関係することが多く、慢性的で再発しやすいのが特徴です。原因の完全除去が難しいため、症状をコントロールしながら上手に付き合う治療が中心となります。
  • 外部寄生虫:
    ノミ、マダニ、疥癬などのダニ、毛包虫(デモデックス)などが皮膚に寄生すると、強い痒みが出ます。適切な駆虫と予防が欠かせません。
  • 細菌・真菌感染症:
    皮膚に細菌やマラセチア(酵母菌)が感染すると、炎症とかゆみが悪化します。再発防止には、適切な抗菌・抗真菌治療が必要です。ホルモンの異常や自己免疫疾患等で皮膚のバリア機能が壊れ、細菌や真菌感染を起こしやすくなります。
  • ストレスや不安:
    ワンちゃんや猫ちゃんは、強いストレスや不安を感じると体を過剰に舐めたり噛んだりする「常同行動」をとることがあります。このような常同行動は皮膚炎や痒みを悪化させるため、精神的ケアも必要です。

マラセチア感染症:治療前と治療後

ノミによる皮膚炎:治療前と治療後

 動物病院で行う検査と診断

除外診断の重要性
「アトピー」や「アレルギー」と診断する前に、他の病気ではないことを一つずつ確認します。これを「除外診断」と呼びます。正確な診断が、最適な治療への近道です。

問診
痒みの原因を特定するために、まず飼い主さんへの問診がとても重要です。ワンちゃんや猫ちゃんは症状を伝えられないため、飼い主さんからの情報が重要です。痒みの出る時期、部位、症状の強さ、食事や生活環境、他の症状の有無、シャンプーや予防薬、過去の治療歴などを詳しく確認します。

検査
痒みの原因を特定するためには、問診だけでなく、症状や生活環境に合わせて、次のような検査を組み合わせて実施します。

  1. 皮膚の状態を調べる検査
    まずは皮膚の表面や毛並みの状態を詳しく観察します。赤み、フケ、脱毛、かさぶたなどの有無を確認し、必要に応じて皮膚の一部を採取します。

    • 皮膚検査(搔爬検査): 皮膚をこすって、ダニなどの寄生虫や炎症の有無を調べます。
    • 毛検査: 毛を抜き取って、毛根や毛幹の異常や、寄生虫・菌がいないかを顕微鏡で確認します。
  2. 感染症検査
    細菌や真菌の有無を綿棒やテープで採取し顕微鏡で調べます。
  3. アレルギー検査
    特定のフードに切り替えて、痒みが改善するかを確認する除去食試験や、環境アレルゲンや食物に対する抗体の有無等を調べるための血液検査をおこないます。
  4. ホルモン異常の検査
    皮膚のバリア機能を損なう基礎疾患がないか等を調べるために、血液検査でホルモン値を測定します。
  5. 必要に応じた追加検査
    再発や重症例では、皮膚生検や培養検査を行うこともあります。

痒みの診断には複数の検査を組み合わせて行うことが多く、また時間がかかるもの事実です。しかし、原因を正しく見極めることで、より効果的な治療につながります。

痒みを止めるだけでは治らない

痒み止めとしてステロイドを使うと、一時的に症状は軽くなり、使用が必要な場合もありますが、痒みの原因を取り除かない限り再発を繰り返すことになります。また、長期間のステロイド使用は副作用として、皮膚が薄くなる、毛が抜け落ちる、お腹が膨れる、肝酵素の上昇、多飲多尿になる、筋力低下が起きるなど、体に負担をかけるリスクもあります。

当院では、痒みのあるワンちゃんや猫ちゃんの治療に置いて、痒みを止めることに主眼を置かず、痒みの原因を突き止めることを大切にしています。その上でそれぞれの原因にあった治療を行っていきます。

痒みを防ぐためにできること

ワンちゃんや猫ちゃんの痒みは、原因を正しく知って対策することで予防できる場合があります。日常生活でできる工夫を意識して、痒みの発症をできるだけ防ぎましょう。

  1. 皮膚と被毛の健康管理
    定期的なシャンプーなどのお手入れで皮膚の血行を促し、清潔に保ちましょう。汚れや抜け毛を取り除くことで皮膚トラブルを予防できます。
  2. ノミ・ダニ対策
    外部寄生虫は強い痒みの原因になります。動物病院で処方される予防薬を適切に使い、通年での対策がおすすめです。
  3. 室内環境の整備
    ハウスダストやダニ、花粉などのアレルゲンを減らすため、こまめな掃除と換気を心がけましょう。寝具や毛布の定期的な洗濯も有効です。
  4. 食事と栄養管理
    アレルギー対策として、獣医師に相談した上で適切なフードを選びましょう。皮膚の健康を保つために、オメガ3脂肪酸などを含むサプリメントが推奨されることもあります。
  5. 避妊去勢手術
    性ホルモンバランス異常は皮膚の免疫機能を低下させ、痒みや脱毛の原因になることがあるので、手術をお勧めする場合があります。

ワンちゃんや猫ちゃんの痒みは原因が多岐にわたり、見極めがとても大切です。「とりあえず薬で抑える」ではなく、原因に合わせた正しい治療と日常のケアで、愛犬・愛猫の快適な生活を守りましょう。

「うちの子が体を痒がっている!」──そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。

さくま動物医療センター
☎ 0964-28-6803