今回は、動物さんの健康管理において非常に重要な「腫瘍」について、特に、腫瘍のことばについてお話したいと思います。

時々、転院や紹介で来られる飼い主様が「この子は昔、小さい癌ができて手術しました」とお話されることがあります。その際、「そのときの病理検査の結果はどうでしたか?」と尋ねても、多くの方が覚えていないか、病理検査を実施していないことがあるようです。飼い主様の中には「できもの=腫瘍=癌」と考えてしまう方が少なからずいらっしゃいますが、必ずしもそうとは限りません。実際に切除した「できもの」が何であったかを知ることは、その後の対処法や予後(再発や転移のしやすさ、寿命に関わる影響)にとって非常に重要です。

腫瘍とは
それでは腫瘍とは何でしょうか?
通常、健康な細胞は、特定のサイクルで成長し、古くなったり壊れた細胞はなくなって新しい細胞に置き換わります。細胞の成長と分裂のサイクルは、ルールを決める遺伝子がちゃんと管理をしているからです。しかし、遺伝子に問題が起きると、この管理がうまくいかなくなってしまい、体に必要ない細胞がどんどん増えてしまいます。この増えすぎた細胞が集まってできるのが腫瘍です。この増えすぎた細胞は、普通の細胞とは違って、自分たちだけの血管を作ったり、特別なやり方で大きくなります。腫瘍は、細胞が普段の成長の仕方を忘れて、勝手にどんどん増えていくことでできます。

良性腫瘍と悪性腫瘍
腫瘍には、「良性」と「悪性」の二つの種類があります。良性腫瘍は、成長がその場所だけなので、他の周りの組織に広がることはありません。通常、成長がゆっくりなので、健康診断で偶然見つかることが多いです。良性腫瘍は体の他の場所に広がったりはせず、多くの場合は健康に大きな影響は与えません。しかし、もしサイズが大きくなりすぎると、近くの組織や器官を圧迫して問題を引き起こすかもしれません。

一方、悪性腫瘍は、成長して周りの組織や血管に広がったり、体の他の部分に転移することがあります。成長が早く、見つかった時には既に進行していることもよくあります。悪性腫瘍は他の場所に広がることができるので、治療はより難しくなります。

様々な悪性腫瘍
癌(がん)というのは、皮膚や臓器の表面を作る細胞(上皮系由来細胞)が異常に増えてできた悪性腫瘍です。(良性の場合は「~腫」という名前になります。(例:乳腺腫(良性)、乳腺癌(悪性))また、上皮系細胞由来ではない筋肉や骨、神経を作っている細胞(間葉系由来細胞)が異常に増えてできた悪性腫瘍は「~肉腫」という名前になります。(例:血管腫(良性)、血管肉腫(悪性))ただ、上皮系でも間葉系でもない細胞(独立細胞;細胞一つだけで機能できる細胞)である赤血球や白血球(主にリンパ球)や肥満細胞などは、基本的に血管の中やリンパ管の中、上皮の至るところに元々あるため、基本的に良性、悪性の区別をしません。(例:リンパ腫、腫瘍化したということはすでに全身転移しているようなものなので)。

腫瘍ではない「できもの」
「できもの」と一口に言っても、それが必ずしも腫瘍であるとは限りません。例えば、慢性的な炎症によって組織が厚く硬くなり「できもの」として見られることがあります。肉芽腫は、慢性的な感染症、外傷後、または異物が体内に入った反応として生じる炎症した組織で、しばしば硬く、赤みを帯びた腫れとして現れます。さらに、嚢胞は、腺の塞がりや感染、遺伝的条件、あるいは発育異常など様々な原因で体内のどの部分にでもできうる袋状の構造で、通常は液体や半固形物を含んでいます。このように腫瘍ではない多くの症状が「できもの」として感じられることがあります。

ということで、全ての「できもの」が腫瘍や癌ではありません。難しいですよね。。。

しかし、これらの違いを知っておくことは非常に大事で、この違いによって、その「できもの」の再発率、転移率、転移しやすい場所やその動物の寿命まで左右するものです。ワンちゃんや猫ちゃんに「できもの」が見つかった場合は、あわてることなく、まずは落ち着いてご相談ください。