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【コラム】ゴクゴク飲む猫ちゃん。多飲多尿のはなし
最近うちの子よく水飲んでいるな、おしっこの量が増えたな、何てことありませんか?
猫ちゃんはもともと水分を多く取る動物ではありません。特に何の理由もないのに水を飲む量が増えたり、おしっこの量が増えているのであれば、病気のサインかもしれません。
多飲多尿で考えられる病気として腎臓病を思い浮かぶ方は多いかもしれません。でも多飲多尿で考えられる病気は腎臓病だけではないんです。今回は、猫ちゃんの多飲多尿の原因となる代表的な病気についてお話ししたいと思います。
多飲多尿とは?
そもそも「多飲多尿」とは何でしょう??「多飲多尿」とは、通常以上に水を飲むこと(多飲)と、頻繁にトイレに行くこと(多尿)が同時に見られる症状です。
具体的には、通常の1日に水を飲む量が体重1kgにつき100mlを超えたり、おしっこの量が通常の倍以上になったりすることです。猫の水を飲む量やおしっこの量を正確に把握するのは難しいですが、毎日猫ちゃんを観察していると気づくことが多いのではないかと思います。
猫の多飲多尿にはいくつかの主な原因が考えられます。以下は、その代表的な病気と症状です。
1.慢性腎臓病
多飲多尿で考えられる代表的な病気は、猫ちゃんにとって避けて通れないと言っても過言ではないほど多く発症する慢性腎臓病です。慢性腎臓病は中高齢の猫ちゃんに多く見られる病気で、腎臓の機能が徐々に低下することで発症します。腎臓の機能が低下すると、おしっこの濃縮能力が落ちることで量が多くなります。そして、体の水分を補うために水を多く飲みます。
症状:慢性腎臓病の症状としては、多飲多尿の他、食欲がなくなったり、体重減少、嘔吐や脱水症状などがあります。しかし、このような症状が現れるのは、腎臓が正常時の働きの33%程度しか機能しなくなった時と言われています。なので、このような症状が現れた時には、すでに腎不全の状態になっていると言えます。そして、「多飲多尿」は腎不全の初期症状となります。
対策:残念ながら慢性腎臓病は完全に治すことはできません。慢性腎臓病の治療は、病気の進行を遅らせ、症状を管理することを目的とします。定期的な血液検査や尿検査を行い病気の進行をモニタリングしながら、低タンパク質、低リン、低ナトリウムの食事療法や、高血圧の管理や腎臓機能をサポートするための薬物療法、脱水を防ぐための点滴などの治療を行っていきます。慢性腎臓病の適切な治療と管理で猫ちゃんの生活の質をできるだけ保ってあげるためには、いかに早く病気を発見するかが重要なポイントとなります。
2.糖尿病
糖尿病は、猫ちゃんの多飲多尿の一般的な原因の一つです。糖尿病では、膵臓から分泌されるインスリンが不足していたり、インスリンの働きが相対的に弱くなったりして、血糖値(血液中のブドウ糖の量)が上がった状態になります。血糖値が上がった結果、浸透圧の影響で血管内に水分がひっぱられるので多尿になります。猫ちゃんの糖尿病は肥満や膵炎などの病気が原因となって発症することが多いです。また、女の子よりも男の子のほうが糖尿病になりやすい傾向があります。
症状:糖尿病の症状としては、多飲多尿の他、食欲は増加して食べる量は増えているのに痩せてしまうのも初期に見られる症状の一つです。また、猫ちゃんがかかとをつけて歩くことも糖尿病の特徴的な症状です。そしてさらに症状が進むと、食欲の減少や後足のふらつき、疲労感などがあります。また体が酸性に傾いてしまう「ケトアシドーシス」という状態に陥るとすぐに入院治療を行わないと致命的となります。
対策:糖尿病の管理には、インスリン注射、適切な食事療法、体重管理が重要です。定期的に血糖値を計り、薬の相性と必要量を慎重に調子しながら、インスリンの投与を基本的に1日2回飼い主さんに行っていただきます。また、食事は糖尿病の猫ちゃん用の療法食など、高たんぱく&低炭水化物な食事を与える等して、その子に会った食事管理と体重管理を行います。
3. 甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、中高齢の猫ちゃんにはとても多い一般的な病気で、甲状腺が過剰に活動することで甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。このホルモンは代謝を促進するので、喉が渇くようになり、多飲多尿を引き起こします。
症状:症状としては、多飲多尿の他、代謝が活発となるため、エネルギー消費が増加して食欲旺盛になるのですが、十分な食事をとっていても痩せてしまうことがあります。下痢や嘔吐などの消化器症状、被毛の荒れや脱毛、攻撃行動や年齢に合わない活発さ(過活動)などがあります。
対策:甲状腺機能亢進症の治療には、主に薬物療法、食事療法、手術があります。薬物療法では、甲状腺ホルモンの生産を抑える薬を投与します。食事療法では、甲状腺ホルモンの元となるヨウ素を制限した食事を与えます。薬物療法も食事療法も甲状腺を小さくするのではないので、ずっと続けなければなりません。手術では病気の原因となっている大きくなった甲状腺を取り除くのですが、手術なのでリスクが伴うのと、甲状腺を取ってしまうことで甲状腺ホルモンがなくなるため、逆に甲状腺ホルモンの内服が必要になることがあります。治療法の選択は猫ちゃんの健康状態や年齢によって異なりますので、獣医師が飼い主様と相談しながら最適な方法をご提案します。
4. クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
クッシング症候群は、ホルモンの病気で、猫ちゃんではあまり見られない病気ですが、発病すると厄介です。この病気は、腎臓の近くにある副腎から過剰な量のコルチゾールというホルモンが分泌されることで身体のいたるところに異常をきたします。このホルモンの過剰により、代謝が変化し、多飲多尿が見られることがあります。
症状:クッシング症候群の症状としては、多飲多尿の他、食欲増進、体重の減少または増加があります。また、症状が進行すると筋肉量が減り、歩いたりすることが難しくなったり、お腹が膨らんだり、皮膚が薄くなったり脱毛などの皮膚や被毛の異常が見られるようになります。また、クッシング症の子の多くは糖尿病を併発しています。
対策:猫ちゃんのクッシング症候群は、腫瘍が原因であることが多いので、腫瘍の摘出手術などの腫瘍に対する治療があります。また、副腎ホルモンの分泌を抑える薬の服用など内科治療もありますが、ずっと続けなければいけません。糖尿病を併発していることが多いので、糖尿病の管理を含めて猫ちゃんの状態に応じた治療法を獣医師と相談して決めていきましょう。
多飲多尿を見つけたときの対策
猫ちゃんに多飲多尿の症状がみられる場合には、次のような対策を取ることをお勧めします。
- 獣医師の診察を受ける
多飲多尿の原因を特定するために、まずは早急に獣医師の診察を受けましょう! 血液検査、尿検査、画像診断など適切な検査を行って、原因を突き止めることが重要です。 - 適切なケアを行う
診断結果に基づき、獣医師の指示に従って適切なケアや治療を行いましょう。 - 観察を続ける
猫ちゃんの水の飲む量やトイレの頻度を記録して、日常的な観察を行いましょう。観察を継続することで、病気の進行や治療の効果をモニタリングすることができます。 - ストレスを避ける
猫ちゃんの生活環境を整えて、ストレスを避けることも重要です。安定した生活環境を提供し、猫ちゃんが安心して過ごせるようにしてあげましょう。
猫ちゃんの多飲多尿は、さまざまな病気のサインである可能性があります。なので、大切な猫ちゃんを日々観察して、猫ちゃんが通常以上に水を飲んだり、頻繁にトイレに行く様子を見せた場合は、迷わず獣医師に相談してください。しかし、多飲多尿の症状は病気によっては症状がかなり進行してきた時にしかでてこないこともあります。なので、定期的な健康診断を行い、多飲多尿の症状がみられる前に異常を発見し適切な対策を講じることが大切です。病気の早期発見と早期治療が、猫ちゃんとの健康的な生活を守るための最善の方法です。